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《満てん栄養士☆成功事例インタビュー》栄養士・食育アドバイザー宮島則子先生②【栄養士としての成長~飛躍】

2015年10月07日
『栄養士の働き方』に新しく誕生した《成功事例インタビュー》コーナー。
学校栄養士として33年のキャリアを持ち、今も食育アドバイザーとして現役で活躍されている宮島則子先生の【第一部】はいかがでしたでしょうか?
【第一部】では宮島先生が栄養士になったきっかけから「栄養士」としての“天命”とも言える使命感を持つに至った経緯、そして「教育」としての「学校給食」に手応えを掴んだ出来事までが綴られています。
【第二部】では、教育者としての「自覚」と積極的な行動、組織を巻き込んでいく牽引力で自分自身の「栄養士力」をぐんぐん成長させて行き、「給食力」と「学校力」を強くしていく内容をお届けしてまいります。ご期待下さい。
◇【第一部】より~東京都荒川区という町に教わった「栄養士」としての使命
✲ 【第一部】の締めくくりより・・・
荒川区で採用され初めての勤務先は、南千住の山谷にある小学校でした。山谷という地域は、お金を返せなくなってしまった家族が夜逃げをして来る地域でもあったんですね。なので、その地区の小学校でも、1学期の間に何人も地方から逃げてきた子供が転入してくるような状況でした。着の身着のままで逃げてきた家族も多く、ランドセルを持っていない子供もいるほどでした。
そんな子供たちが、今後を担っていく大人になっていくと思ったら、『少しでも食文化を経験してもらいたい』、『海外の食事を少しでも体験させたい』と感じたんですね。「給食」は、生涯を通じた人格形成の為の体験する学習となるのではないかと考えるようになったのです。
そして、給食の改善に取り組んでいくうちに、地域、学校への信頼感が強まってきました。学業への意識も高まり、勉強しようとする子供たちが増えて来たんですね。教員が、給食指導(現在の食育ですね)を通してどんな教育ができるかを考えることで、指導力も上がってきたんです。学校での給食は、子供の生活全体を支える基盤になると実感しました。「給食力」それが、「学校力」の向上につながり、信頼につながる。そして、地域の活性につながる。給食はただ子供にご飯を食べさせているだけではなんだと痛感しました。
◇ファシリテーター・江口先生よりコメント
*江口先生)
「給食力」、「学校力」いいですね。
*宮島先生)
初任の時から、体験する学習を意識して給食の提供に取り組んでいたところ、3年目にはその給食が東京都の文部大臣賞を受賞したんです。当時の、校長先生が女性で給食部の研究部長であり、様々な方々のサポートを得られる学校であったことが受賞の要因だったと思います。
これまで、8学校くらい担当してきましたが、やんちゃな子供たちが多い学校も経験してきました。全国で名の知れた、廊下をバイクが走る学校や、金髪の男子がたくさんいるような学校などです。教育長から、「やんちゃな中学生を食で変えろ」とのミッションをいただいたときは、正直無理ですよ…とは思いました。でも、この子たちも給食で変わっていったんです。
◇『わくわくモーモースクール』~命の食育がスタートするまで
*宮島先生)
ある時、教育の新聞を読んでいたら、地方のある学校で、学校に牛を連れて来て、牛を中心に学習をしたという小さな記事をみつけたんです。この記事にとても心がときめいて自分の学校でもやりたいと思い、どのような学習だったのか新聞社に電話をして聞いてみました。
しかし、「まず、無理ですね」と即答されたんです。
そこで、無理ではないと証明するために、まず職員室の先生にも相談し「牛を中心にした学習っていいよね!やりたいよね!」と伝え周り、牛を中心した学習を出来る環境を整えることにしました。まず、組織を作るために、動物好きのメンバーに声をかけ、教務主任や副校長、理科主任など、様々なメンバーを集めて、熱心さを何度も何度も新聞社に伝えたところ、酪農教育ファームへ持ち帰り検討してもらえることになりました。
*麦島コンサルタント)
一度断られたくらいでは諦めないところがスゴイですよね。相手を説得するために組織力を固めていったところに「食育」への情熱?栄養士としての使命感を感じます。
*宮島先生)
この授業は、牛を3頭連れてくる必要があり、費用も労力もかかることを何度も説明されました。それでもどうしても実施したいという強い意志で説得し、学校からも実施についての許可を得たんですね。
通常、教育委員会や学校長が提案して、驚くような教材を持ってくることはあっても、先生方が団結して「この授業をやってみたい!」というようなことはなかったため、やってみるかとなったんですよね。初めての経験でした。何時間もかけて色々な打合せをして、授業の内容を決めたのを覚えています。
◇命を実感する『わくわくモーモースクール』
*宮島先生)
牛が来る当日は、数年ぶりの大雪だったんですね。子供たちが目を輝かせて楽しみにしていたので、職員総出で朝から必死に雪かきもしました。
牛が来たら子供たちは手をつないでわっかになって牛を取り囲んで喜んだんです。牛を中心にした学習『わくわくモーモースクール』は1年生から6年生まで丸1日を通して行いました。
☆牛はどう言うものなのか、
☆子牛とはどう言うものなのか、
☆出荷されるとはどう言うことなのか、
☆命はどう言うものなのか
などなど様々なことを学べるものでした。
☆雄の子牛2頭が来ましたが、あと2週間で出荷されるという。これはどう言う意味なのか。
☆名前もつけてもらえない牛。哺乳瓶でミルクを飲まされる牛。どうして?
☆牛の一生はどれくらいか。
☆国産牛と和牛の違いは何か。
☆牛の波打つ血管に触れ、ドクドクと言う波打つその感覚に命を感じたり。
☆乳しぼりをして体温を感じたり、
☆その絞った牛乳を作ってお菓子を作ったり、
☆牛のレザーで作られている物を学んだり。
☆牛乳屋さんではどのような衛生管理をしているのかなど、
1日かけて、牛が人間の為に、最後の最後まで命を使い切って生きてくれていること、使命を果たしてくれていることを『わくわくモーモースクール』で学習しました。若い男性の先生でさえも、「牛って雄でも牛乳出るんじゃないの?」とか聞いてくるくらい、意外と知られていない「牛」のことを直に触れて学んだのです。
*麦島コンサルタント)
でも一般的に牛は乳が出ると思っているから、雄か雌かなんて考えてないのかもしれないですね。
*宮島先生
ね。ほんとに、そうなんですね・・・
雄に乳が出るわけないじゃないですか!
妊娠して、出産して初めて乳が出るんですからね!ほんと、おかしかったですよ。
牧場は命が生まれる場所であって、雄にとっては命が絶たれる場所でもあるってことだったんですよね。肉牛として育てられた牛は、和牛と呼ばれるんです。乳牛が歳をとって、乳がでなくなった牛は国産牛と呼ばれるんです。知ってましたか?
子牛があと数週間で殺されてしまうと言って泣いてしまう子供たちもいたんです。でも、その日はあえて牛革のレザージャケットを着ていったんですよ。そして、殺されてもこうやって私たちの為に役立ってくれていることを、子供たちに話し聞かせたんです。
子供達には「先生、残酷だよ」とか言われながら、牛の命が人間を生かしていることを伝え、それを感謝する大切さを伝えたかったんですよ。この授業で・・・
子供たちがこれまで給食の際に牛乳を簡単に捨てていた現状を見ていて、命の大切さを知ってほしいと実施したものでしたが、思っていたよりも子供たちには影響を与えることができたようでした。子供たちは学んだことを家に持ち帰り、家族にとめどなく報告したとのことでした。
◇教育とは「感動」~感動が「日常」に与える影響力
*宮島先生)
教育は感動を与える事なんです。
この授業の後、これまで作文を書いたことのないような子供、字がうまくかけない子供、漢字を書いたことのないような子供まで、感想文を書いて提出してくれたんです。今まで作文を書いたことのない子供たちが自分の思いを原稿用紙4枚に、文字をびっしりと書いてくれている姿を見て、担任と私は嬉しくて涙を流してしまいました。
これほど、子供に感動を与えられたんだと実感しました。学びとはこういうことなんだと実感したんですよ!!
感想の中には、『おうちに帰ってから牛の命からいただいている物を家中探してみました。冷蔵庫を開けたら牛乳、チーズ、生クリームがありました。冷蔵庫だけではなく、洋服箪笥には牛の皮でできたお父さんのベルトがありました。お母さんのバックもありました。靴箱には牛の皮でできた靴もありました。ランドセルも牛の命でできていることを初めてりました。これまで、いたずら書きをしたりしていたけど、牛の命から出来ていると思ったらとても愛おしく感じ撫でました。』などと言う子供たちもいたんです。
*江口先生)
これが教育の本質ですよね。今のお話しを聞いていると、学校でよく牛を中心とした授業を出来ましたね。学祭的な研究をやったと言うことになりますね。しかも1日、牛だけで勉強したんですもんね。これは、逆に大きなインパクトとなりますね。きっとこの『わくわくモーモースクール』が小学校の授業の中で一番記憶に残ったのではないでしょうか?
*宮島先生)
このスクールに仕事を休んで参加してくださったご家族の方や地域の方、中学生、高校生も多く、地域全体が感動を受けた授業になったんです。子供や家族、地域の人々だけでなく、教員も一生忘れない行事になりました。感動を与えることで学んでいくんです。
*江口先生)
教育というものは、感動を与えるものなんですね。1日、やらせてくれたということはとてもサポート力のある学校でしたね。家族の方のサポートもすごいですよね。イタリアのスローフード学習に親御さんを参加させるには、3年もかかっていましたよ。今回の牛の学習は、1日でできる授業だったんですよね。とても大切ですよね。
*宮島先生)
牛乳を捨ててしまうのはもったいない、罪悪だと思える子供たちが増えて欲しいんです。
*麦島コンサルタント)
今はわざわざもったいないということを教えないといけないんですもんね。
*宮島先生)
子供たちの力を延ばすために、諦めず何事にも取り組んだことが、健康で優秀で豊かな心をもった子供の成長、そして私たち職員の成長につながったと思っています。
◇教育力(食育力)で日本を元気に!
*宮島先生)
終日、牛の教育をさせてくれた学校のやさしさ、理解してくれた人々の協力があってこそ得られた学びでした。そもそも、学校というのは、固定客を相手にしているのだと実感しました。
*江口先生)
おっしゃる通りですね。お子さんのまわりには、たくさんのネットワークがありますもんね。
*宮島先生)
そうなんです。子供たちがいればその周りに親がいる、家族がいる。
次の日本を担っていく子供たちを健康で優秀で豊かな心を持った子供たちに育てていくことが目標なんです。それが出来れば、おのずと家族や地域にも認められるんです。少子化が進む現在ですが、一人ひとり個の力を大きくしていけばどうにかなります。
*江口先生)
そうそう。そうなんですよ。少子化ってよく皆さん言いますけど、個々の資源を増やすことで少子化にも対応できるんです。人数が少なくても個々の知的レベルや健康レベルを高めていくことで、国の力は大きくなるんです。
個々のレベルを高めることが重要な対応策なんです。人が少なくても資源を増やすことはできるんです。知識を得るための教育全てが個々の資源になるんです。ボーキサイトも同じですよね。もともと土地を劣化させるんですけど、視点を変えればそれが有効な資源となるんですよね。
今回のテーマである「食」ですが、これは人々にとって欠かせないものであり、必ず誰でも経験することです。「食」は、確実に学習になりますもんね。荒川区の協力体制には感心しました。先生方、家族、地域全体のバックアップは素晴らしいものでしたね。
☆【第二部】はここまで・・・
命の授業!『わくわくモーモースクール』が軸になったお話でしたが、栄養士として教育者としての大切なポイントがいくつも有りました。参考にしたいですね!
さて、次回【第三部】は宮島先生の最終回となります。学校給食の現場を33年間勤めあげ、今は食育アドバイザーとしてこれからの担い手育成にも尽力されている宮島先生から「これから」の栄養士・管理栄養士について語っていただきました。
ご期待下さい。