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鰯のぬか炊き「じんだ煮」 ─北九州市小倉─

2016年07月12日


私の故郷、福岡県北九州市は、九州最北端にある政令指定都市です。関門海峡に面し、山口県下関と隣接していることで「九州の玄関口」とも呼ばれます。古くから製鉄業をはじめとする工業都市として発展し、日本の産業近代化の一翼を担った官営八幡製鐵所の関連施設が世界文化遺産に登録されたことも記憶に新しく、我が故郷に世界文化遺産があることは地元の誇りです。

日本海(響灘)・瀬戸内海(周防灘)・関門海峡といった海に囲まれた土地柄、海産物が豊富なグルメな街でもあります。特に福岡県などの北部九州では、鮮度が落ちやすいとされる鯖を刺身で食べる珍しい食文化があります。鯖といえば、シメ鯖が一般的に知られますが、活きの良い鯖の刺身はシメ鯖とは一味違った美味しさを持ちます。今回は、一見変わった家庭の味「鰯のぬか炊き」をご紹介いたします。

鰯のぬか炊きとは


鰯のぬか炊きは、豊前国(主に福岡県北九州市小倉地区)を代表する郷土料理で、別名「じんだ煮」とも呼ばれます。じんだとは古い言葉で「ぬか」のことを表します。ぬかといえば、ぬか漬けを思い浮かべるかと思いますが、このぬか炊きは、普段直接口にする事の無いぬか床(米ぬか)自体を調味料として用いるのが大きな特徴。

とれたての鰯を甘辛く煮た後に、家庭で代々受け継がれてきたぬか床を最後に加える煮込み料理です。唐辛子や山椒の実、昆布、生姜などを隠し味として混ぜ込む場合もあり、作り手によって独自の工夫も様々。鰯の代わりに鯖や筍などを用いる場合もあります。

時間をかけて炊くことで魚にしっかり味がしみ込み、まろやかで素朴な風味がどこか懐かしい気持ちにさせてくれます。小倉の旦過市場では、土産物としても販売しており、ホカホカのご飯のお供に、酒の肴にと現在も変わらず親しまれています。

鰯のぬか炊きの歴史


起源は現在も詳しい事は分かっておらず、歴史に関しても諸説あるようです。

一説によれば、江戸時代に起こった関ヶ原の戦いの後、小倉城を築城し、豊前国を治めた細川忠興の頃に小倉にぬか漬けが伝わり、その後の国替えで1632(寛永9)年に入国した譜代大名で豊前小倉藩主となった小笠原忠真が奨励したことで広まったとされます。またその時代、傷みやすい海産物を保存食として利用する為に、ぬか床を用いて鰯や鯖などを炊き込んだともいわれています。

鰯のぬか炊きの栄養


ゆっくり炊き込む事で鰯の骨まで柔らかくなり、1匹丸ごと食べられます。鰯の豊富なカルシウムとビタミンDを効率良く摂取でき、骨粗鬆症予防に役立ちます。また、青魚である鰯の油にはDHA・EPAといった不飽和脂肪酸が多く含まれ、記憶力向上や血中脂質改善、高血圧予防効果なども期待できます。

また、米ぬかにはビタミンB群やビタミンE、カルシウム・鉄分などのミネラル、たんぱく質(アミノ酸)、植物性乳酸菌、ポリフェノールの一種であるγーオリザノールなどが豊富。これらは、疲労回復や美肌効果、免疫力向上、整腸作用、自律神経のバランスを整えるなど、様々な健康効果が期待できます。

知恵と工夫が詰まった伝統ある「鰯のぬか炊き」を故郷の味として、今後も親から子へ継承してほしい1品です。福岡県北九州市小倉にお越しの際は、是非とも昔ながらのあったかくて美味しいおふくろの味を堪能してみてはいかがでしょうか。

【鰯のぬか炊きのレシピ】


<材料(1人分)>
鰯  3匹    生姜  50g
酒  90cc    水   90cc
砂糖 大さじ1  みりん 大さじ1
醤油 大さじ2  ぬか床(米ぬか) 30g

※家庭のぬか床がない場合は、市販のもので良い。


<作り方>
①鰯の頭を切り取り、腹を切り開かずに内臓を取り除き、流水でよく洗う。80℃程度のお湯をかけ、冷水にとる。生姜は皮を剥き薄切りにする。 

②鍋に酒、水、砂糖を入れ、鰯と生姜を加えて弱火で煮立たせる。その後、みりん、醤油を加え、落とし蓋をして30分程炊く。

③ぬか床を加えて優しく混ぜ込み、ぬか床が鍋に焦げ付かないように、 鍋を軽く揺すりながら10分程煮詰めて完成。

※煮崩れを防ぐため、弱火でゆっくり炊きましょう。また、圧力鍋があると時間を短縮でき便利です。たくさん作って常備菜にするのもお勧め。