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自然の恵みを頂く −宮城県石巻市桃生町−

2014年08月18日

私は宮城県の北部にある桃生町という小さな町で生まれ育ちました。町の7割が田畑や山という祖父母の代から変わらない景色が広がる農村です。
 桃生町にはこれといって、特産物や観光名所がなく、外部からの人の行き来が少ない分、代々この土地で生まれ育った人たちが多く、季節ごとに、家々で採れた野菜や果実、時にはそれらを料理にして「おすそ分け」をしたりと「隣近所」とのつながりを大切にしています。

自然の中に

自然豊かな桃生町では、自然に実る食材がたくさんあります。東北の厳しい冬が終わり雪どけの田畑の斜面には雑草とまぎれてふきのとうが、春のお彼岸時期にはヨモギが顔を出します。夏には梅、今では知っている人も少ない甘酸っぱい「ぐみの実」がなり、実りの秋にはクルミや栗などの木の実、柿などの果実、山菜、きのこ類が育ちます。
 このように桃生町では、畑以外でも自然の恵みがくれた食材がたくさん実ります。
自然の恵みがくれるものふきのとうなどの春の山菜は、特有の苦みと香りを持っています。その独特の苦みには、ポリフェノール類が多く含まれ、腸の働きを
整え、花粉症の予防や咳止めに効果があるといわれています。
 また、春のだるさや疲れを解消する働きもあり、こもり気味の冬の間に、体内に蓄積された脂肪や老廃物を排出する効果が期待できます。
 私は、ふきのとう(東北地方では「ばっけ」と呼ばれています)の香りがとても好きで、自家製の赤味噌、砂糖を加え練って作る「ばっけ味噌」は夏の保存食として、ご飯にのせて食べるのがとてもおいしく、食欲のなくなる夏でも食べやすい一品です。

〜東北とは言え、蒸し暑い日が続く夏〜

 近年の夏の猛暑、東北地方も例外ではありません。そこで、暑い夏に私がお勧めしたいのが、母特製の梅ジュースです。母は祖母から教わったそうです。これも保存食で、夏に山で採れた梅を氷砂糖に付け置きし濃縮させて作る梅ジュース、炭酸水で割って飲むと、程よく甘酸っぱい梅エキスが疲れた体を元気にしてくれます。梅に含まれるビタミン類やクエン酸が、筋肉に蓄積された疲労物質「乳酸」の利用効果を高め、疲労回復に役立つのです。
 夏に採れる赤シソも同じく、水を入れ煮詰め、漉した液体に砂糖を入れ、さらに煮詰めて作る赤シソエキス。最後に米酢を入れると、赤紫色の鮮やかな色になります。このエキスを冷たい炭酸水で割って飲むのも暑い夏、夏バテ気味の体を元気にしてくれる一品です。

〜寒い東北の冬〜

寒さで外出が減る東北の厳しい冬、秋に採れた野菜やキノコなどを鍋にしたり、煮物にしたり、炒めたり、お味噌汁に入れたり漬物にしたりと、家々の味付けでできる「ふるさと(母)の味」があります。
 三陸から頂いた牡蠣で鍋をするのもとても贅沢です。また、よく冬に食べる郷土料理の一つに「はっと(すいとん)」があります。小麦粉を練った「はっと」、鶏肉、根菜類を醤油ベースで頂く汁物です。根菜類には、身体を温める作用があったり風邪予防に効果的なビタミンCが含まれています。
また身体のむくみをすっきりさせてくれるカリウムが豊富で運動不足気味の冬場にはとてもよい食材です。
 雑談ですが、母がお勧めしてくれたのが、「かぼちゃのはっと」です。はっと、かぼちゃ、ご飯を混ぜ、砂糖と塩だけで味を付けた雑炊のようなものです。組み合わせがとても意外ですが、ご飯と「はっと」のとろっとした食感に甘いかぼちゃがとてもよく合う母の味です。

最後に

 桃生町には、テレビの映像や話では伝わらない、田畑や山の自然がこんなにも綺麗なものなのかと何十年も住み続けていてもそう想わせてくれる自然の凄さがあります。
 時代とともに変わる風景や人づきあいですが、美しい恵みと四季折々の厳しさを持つ自然、自然とともに生きてきた人々の知恵、桃生町のどこか変わらない温かさを私たちは次世代に残していかなければならないのだと思います。
 地域の特色や良さを知ってもらうため「わが町」を盛り上げよう、宣伝しようという動きがでている近年ですが、桃生町民だからこそ味わえる、桃生の自然、隣近所との付き合いを大切にしていきたいと思います。