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「はらこめし」の歴史と現在 −宮城県亘理郡亘理町荒浜−

2014年08月18日

 私の地元、宮城県の南にある亘理町荒浜のお話をするまえに、まずは今般の東北地方太平洋沖地震により被災された皆様にお見舞い申し上げますとともに、尊い命を失われた方々に心からお悔やみ申し上げます。また、沢山の皆様の励ましや支援により、私たちは少しずつ立ち直り前を向くことができました。心より感謝申し上げます。

 私が住んでいた町「亘理町荒浜」。
 今回は荒浜発祥の郷土料理「はらこめし」をご紹介します。
 荒浜は、阿武隈川の河口と海が交わるところにあり、昔から鮭の地引網漁が盛んでした。
 阿武隈川の鮭は、古来有名で藩制時代、仙台藩主はもちろんのこと、将軍家にも秋の味覚として献上していたそうです。この鮭を漁獲するために、阿武隈川河口に地引網を仕掛け、数十人の漁夫たちが掛声も勇ましく一網に数百の銀鮭を漁獲したといわれています。
 また、藩制時代、仙台藩主貞山公(伊達政宗公)が貞山堀臨検の際に亘理藩の荒浜漁民が元来漁師料理として食していた、鮭の腹子をご飯に炊いた「腹子飯」を献上したところ、貞山公はことのほか喜び側近へ吹聴したのが、世に珍重されるに至った始まりと伝えられているといいます。

写真:亘理町HPより

荒浜発祥の郷土料理

  藩政時代から続く伝統の味は、荒浜の飲食店が加盟する「荒浜はらこめし会」などの宣伝もあって全国的に有名になり、週末になると「はらこめし」を目当てに多くの観光客が来町し、人気の店先には行列ができるまでになりました(亘理町ホームページ参照)。
 私は祖母から「大漁の時に漁師が簡単に作って出したのが、はらこめしとして代々伝えられているんだよ」と聞いています。
 さて、上でも記していますが、荒浜には「はらこめし」を目当てに来る方も多くなっていましたが、面白いことに「どこが一番おいしいの?」と聞かれると、誰もが決まって「うちのが一番うまいに決まってるでしょ」と言うのです。結局、地元の人は自分の家庭の味を代々受け継いできているので、それが一番
おいしいと感じているようです。

『鮭』のすごいパワーをご紹介!

①DHA(ドコサへキサエン酸)・EPA(エイコサぺンタエン酸)が豊富。
 これらは学習・記憶能力の向上に良いといわれています。また、HDL−コレステロール(善玉コレステロール)を増やし、心筋梗塞や脳梗塞といった命にかかわる病気を予防する効果があります。

②カルシウム・ビタミンDが豊富
 骨の材料であるカルシウムと、カルシウムの吸収を助けるビタミンDが豊富に含まれ、骨を丈夫にします。

③サケの頭軟骨部分にコンドロイチン硫酸、皮にコラーゲンが豊富。
 関節痛や老化防止にも効果的です。

「鮭」はこの他にも色々な栄養素を含んでいて、栄養が沢山詰まった魚なのです。

本場荒浜の「はらこめし」の特徴

 最近は秋になるとコンビニやスーパーなどでも「はらこめし」が売られていますが、それらを荒浜の人たちは皆「あいなのは、はらこめしじゃねぇ〜(あのようなものは「はらこめし」ではない)」と言っています。
実際私も大学時代、郷土料理の実習をした際「これ偽物だよ〜これをはらこめしと言わないよ〜」と言っていたことを思い出しました。
 ちなみに、いくら丼とは全く違う物ですのでお間違いのないように!
 では、本物の「はらこめし」とはなんなのか??
 私が大学時代に作った「はらこめし」は、茶飯の上に鮭と鮭の卵がのっていたのはまあ良いとして、更にサヤエンドウの斜め切りにしたものも飾ってありました。スーパーやコンビニで見る「はらこめし」には、海苔が散らされていたこともありました。色合いや味はそのようなお弁当としては良くなるのでしょうが、これでは「はらこめし」とは言えません。
 まず、鮭をさばき身と腹子(鮭の卵)に分けます。(※残りの部分も「氷頭なます(頭軟骨)」や「あら汁」にするので、残すことなく食べることができます。これも、昔の人の知恵だと思います)
次に、鮭の切り身は適当に切り、醤油や酒、砂糖などの調味料で煮込みます。その煮汁で腹子にもさっと味をつける程度火を通します。さらに、米もこの煮汁で炊くというのが特徴で、鮭・腹子・ご飯すべてに鮭のだしが良くしみ出ているのが「はらこめし」なのです。
 そして、この鮭全体を味わうことが醍醐味なので、やはり海苔やサヤエンドウなどの装飾品を必要としないものが本場荒浜の「はらこめし」なのです。
 また、祖母の話によると、昔は魚も腹子もご飯もすべて混ぜ合わせたものが「はらこめし」だったと聞きました。腹子が割れて、ご飯に混ざり脂ののったコクのある混ぜご飯として食べていたとのことです。これが「元祖はらこめし」なんだと知りました。
 「はらこめし」は鮭1尾を丸々使うおもてなしの料理として定着しており、大量に作って親戚に分けたり、皆が集まったときに食べたりする料理になってきました。混ぜご飯になっているより、切り身をきれいに盛り付けて、その合間をきらきらした腹子が埋める盛り付けの方がきれいに見えることにより、今日の「はらこめし」が定着してきたのだと思います。

最後に

私の地元荒浜の「はらこめし」は様々な歴史があり、現代まで受け継がれてきている郷土料理です。
 今は、津波により河口も海も荒れてしまいましたが、また大好きな荒浜が戻り、はらこめし祭りなど、町の行事で皆さまの笑顔が増えるよう少しずつ戻していけたらと思います。