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宮城の笹かまぼこ −宮城県仙台市−
2014年08月18日
「お土産に笹かま持ってきたから、お腹空いたらこれ食べて」 地元の仙台から、引越しの手伝いに来てくれた母が言いました。
私が仙台の実家を出て上京し、約3年半が経ちます。今年の震災時も、私は宮城県にはいませんでした。
「笹かまぼこって、もう普通に買えるようになったの?」震災の影響で宮城のかまぼこ産業は、復興への険しい道のりを強いられていることと思っていた私は、母に尋ねました。
「大きいとこのはもうどこのかまぼこも買えるようになったよ。工場が津波で駄目になって、手作業で再開したところもあったんだよ」母はそう言って、綺麗に包装された、贈答用の立派な笹かまぼこを出してくれました。
写真:宮城県蒲鉾組合連合会 復旧・復興支援サイトより
仙台の名産品、笹かまぼこ
仙台名産として有名な笹かまぼこは、スケトウダラ、イトヨリダイなどの白身魚のすり身を塩で練り、竹串や金串に刺し、手でたたいて笹の葉の形に成形して焼き上げられます。
笹かまぼこをはじめとする宮城県の水産加工工場は、今回津波で多大な被害を受けた、塩釜、石巻、気仙沼などの沿岸地域に数多くありました。
震災後仙台に帰ったとき私は、家の近所で津波が来たところを車で走り、テレビの映像からは伝わってこなかった凄惨さを目の当たりにしました。それがあまりに果てしなく続いており、「石巻や気仙沼はこんなもんじゃないよ」という母の言葉に、さらにぞっとしたことを思い出しました。あの津波の跡地で、再びこの笹かまを作り出すことは、どれだけ大変なことだったろうか。漁業は? 工場
は? 人は?そんなことを考えながら、被災した故郷の人々の努力と苦労の結晶である笹かまを、味わって食べました。ふっくら厚くて軟らかく、優しくて懐かしいおいしさでした。
笹かまぼこの歴史
笹かまぼこの由来に定説はないようですが、その形状から、元は「木の葉かまぼこ」「手のひらかまぼこ」「平かまぼこ」などと呼ばれていたそうです。旧仙台藩主伊達家の家紋が「竹に雀」であることから、その葉の形状に因んで「笹かまぼこ」と呼ぶようになり、旧仙台藩地域で次第に名称が統一されていったようです。現在では「笹かま」との省略形でも通用するようになりました。
笹かまぼこは、仙台駅で土産品としての地位を確立したため、全国的には「仙台市の特産品」との認識もありますが、名称の由来からも「旧仙台藩の特産品」であり、宮城県内の太平洋沿岸の港町で生産が多いのです。宮城県は、全国有数の漁業県であり、気仙沼漁港、石巻漁港、塩釜漁港のような大規模な特定第3種漁港の存在と、関連する水産加工業を発達させてきました。
全国的に見ても、かまぼこ生産量が日本で最も多いのは宮城県であり、全国シェアの10%を占めます(宮城県食産業振興課発表)。
焼きちくわ、揚げ蒲鉾の分野でも、全国最大の生産量を誇ってきました。また、かまぼこの消費量が最も多いのも宮城県です。
東日本大震災で
2011年3月11日、東日本大震災。宮城県のかまぼこ主要生産拠点である塩釜、石巻、気仙沼など沿岸部の港町が、大津波で被災しました。被害を受けた工場の多くは中小企業で、自力再建は困難な状況でした。廃業を決めざるを得ない業者も出てきました。工場の片付けや従業員の雇用保険の失業給付の手続きな
ど、会社の残務整理を強いられた経営者の方、また職を失った従業員の方々の中には、家や家族までも失った人も少なくなかったでしょう。かまぼこ工場だけでなく、かまぼこの原料となる魚を獲る漁業の関係者の方々もしかり。そんな苦境の中で、「笹かまぼこ文化を絶やすな」と、気力を振り絞って笹かま産業の復興に尽力してきた生産者の方々の努力の結果、また仙台土産としての笹かまを食べられる様になった今があるのです。
沿岸部の街は、これまで何度となく津波に襲われてきました。逃れることのできない災害が繰り返されることを思えば、その地を離れて暮らした方が……と単純に思ってしまいます。が、しかし、実際に沿岸地域で暮らす人々は、こう思って立ち上がっているようです。津波によって尊い人々の命や多くの財産を奪い取った海だけれど、その損失以上の恩恵を、長年与え続けてくれたと。海の恩恵にあずかって生きる以上、津波というリスクは、生きることと常に背中合わせに存在するということを覚悟し、この地で生きていこうと。
2011年3月31日、仙台蒲鉾協同組合は、「組合並びに名産笹かまの復興」を、全国に向けて宣言しました。
また仙台蒲鉾協同組合の青年会は、2011年5月22日、仙台の中心商店街で「笹かまぼこ復興まつり」を開催しました。笹かまぼこなどの練り製品をほぼ半額で販売し、売り上げは、被災した事業者の再建支援に充てられるということで、会場には大勢の買い物客が詰め掛け、仙台の街中に100人を超える大行列
を作りました。まつりには全国のメーカー約50社が協賛し、商品を無償で提供していただけたとのこと。まつりに参加した地元の企業は、かまぼこ産業の復興を願って詰め掛けた大勢のお客様と協力してくださった全国の協賛者に、さぞ元気付けられたことでしょう。
私達が故郷のためにできること
きっと笹かまぼこは、これからも仙台の名産品として後世に食べ継がれることでしょう。そうあって欲しいです。かまぼこ生産者の方々の底力で、やっと息を吹き返した宮城のかまぼこ産業を応援すべく、自分にできることは……そうです、私達故郷を離れた元宮城県民が、地元宮城のお土産としての笹かまぼこを、全国各地に届けること。そして、今回の震災から必死に立ち上がった宮城のかま
ぼこ産業を、全国の人々に語り伝えることではないでしょうか。
本場の笹かまぼこは、近所のスーパーで売っているものとは比べ物にならないおいしさです。宮城の各かまぼこ店のHPなどをご覧いただいても分かるかと思いますが、どこも新鮮なお魚を厳選し、合成保存料などもほとんど使用せず、素材の味を生かし、丹精込めて作っています。その分賞味期限は短くなっていますが、安心していただけます。心配される放射能も、現在のところ不検出です。
適度な塩分とお魚の旨み、ぷりぷりとした歯ごたえがとてもおいしいので、何も付けずにそのままいただいても、とてもおいしく召し上がることができます。高タンパク、低脂肪のお手軽食品笹かまぼこは、お子様のおやつやお父さんのビールのおつまみにも最適ですね。さらに、油をひいたフライパンで焦げ目がつくまで焼くと、ぷっくりと焼きたてもおいしさが味わえます。
現在は、宮城の各かまぼこ店の商品が、ネットでも購入できます。みなさまぜひ一度、本場の笹かまぼこを味わっていただきたいと思います。