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「イカ寿司」から見えた田舎の魅力~青森県下北半島~
2014年08月18日
『青森県民はシャリのない寿司を食う?!』とあるテレビ番組の中で、こんなキャッチコピーで放映されたことのある私の地元、青森県下北半島。ここには確かにちょっと変わった(?)昔ながらのお寿司があるのです。
北緯41°、本州てっぺん下北半島
その前に「下北半島ってどこ?」と思う方のほうが多いと思うので、まずはちょっとだけご紹介しますね。下北半島は、本州最北端にある青森県の北東部に位置し、“まさかり”のように突き出た形をしています。森林が地域面積の80%を占め、ぐるりと海に囲まれ、森と海に恵まれた風光明媚な地域です。まぐ
ろで有名な大間、イタコの口寄せで有名な日本三大霊場“恐山”もここ下北半島にあります。また近年は核燃料サイクル基地、国家石油備蓄基地、東通原子力発電所、使用済み核燃料中間貯蔵施設など、エネルギー産業にかかわる施設の増加が著しい土地でもあります。
本州最北端という言葉からも容易にイメージできると思いますが、その気候は決して生活するのに楽なものではありません。夏は偏西風(やませ)の影響で冷涼、冬は積雪が多く厳しい寒さに見舞われます。農作物が育ちやすい環境とはいえないのです。
食糧確保の知恵の結集「イカ寿司」
冒頭でお伝えしましたが、ここ下北半島で日常的に食されている昔ながらの食べ物に、「イカ寿司」があります。といっても、お寿司屋さんで出てくるイカの握りとはちょっと違うんです。イカ寿司とは、茹でたイカの胴体にゲソ(いかの足)と酢でしめたたっぷりの野菜を詰めて、数日お酢などでつけこんだものです。野菜は各家庭によっても違いますが、キャベツ、にんじん、しょうがが一般的のようですね。つけこむ時間も好みで変えることができ、半日程度の浅漬けでも十分おいしいです。淡いピンクの色合いが美しいため、お祝い事にも用いられます。噛んだ瞬間茹でたイカのむっちりとした食感と、中につまったシャキシャキ野菜の組み合わせがなんとも癖になります。お父さんにとってはビールのお供に最適ですね! 私も物心ついた頃から、いつの間にかイカ寿司を口にしていま
した。お盆やお正月、お祝い事などで豪華なごちそうが出る時でも、実家に帰ると必ず食べたくなる味です。テーブルに上がっているとついつい手が伸びてしまいます。さっぱりとした味付けなので、お腹がいっぱいでもどんどん食べられてしまいます。
下北半島でイカ寿司が伝統食になったのには、この土地の気候がおおいに関係しています。先ほど挙げたようにここ下北半島は、厳しい気候により食糧はほとんど獲れない時期もあったようです。ただ、年間を通してイカはよく獲れたため、冬場に食べる保存食として各家庭で作られるようになったそうです。
生き抜くための知恵によって生まれた食べ物といえるでしょう。
田舎は宝庫
私は大学進学で仙台、就職で東京に出てきました。都会に出て初めて、自分がそれまで当り前のように口にしていた食べ物が“その土地ならではのもの”だったことを知りました。都会では、おいしいレストランやオシャレなカフェなど、魅力的に映る食べ物はたくさんあります。でもやっぱり「もし明日世界が終わりを迎えるとしたら、最後に何を食べたい?」と聞かれたら、生まれ育った故郷の
料理を食べたいなぁと思ってしまいます。それだけ、幼少の頃の味覚体験、食の経験というのは、人間を創り上げる非常に重要な要素になるんじゃないかなぁと思います。
また私自身もそうでしたが、田舎にいる人は「ここは何にもない」といいます。でも、本当にそうでしょうか? ずっとそこにいるから気がついていないだけで、「その土地だからこそ手に入れられるもの」が宝のようにたくさん転がっているんじゃないでしょうか。食というのもその1つです。何でも手に入る現代だからこそ、先人の知恵により創られたその土地ならではの食べ物、食文化を守
り、次世代につないでいくことが私の役割なのだと思っています。
一口栄養メモ
イカは高タンパク、低カロリーのため、減量をしたい時に活躍する食材です。また、イカに含まれるタウリンには血圧を正常に保つ働きや、血中コレステロールの減少に役立つと考えられています。