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祇園祭と「鱧」 ~京都市東山区~

2014年08月18日

「え? 鱧は売ったはらへんの?」
 関東に移り住んで初めての夏に、母から教わった大好きなメニュー「鱧の磯香揚げ」を作ろうと、スーパーへ買いに行ったとき、「鱧は売っていません」と言われ、驚いた事がありました。いつまでも京都が恋しい私にとって、「鱧」は特に京都を感じる思い出のある魚です。

日本三大祭り「祇園祭」

 京都の夏といえば、日本三大祭りの一つである「祇園祭」です。
京都の中心地に32騎の鉾が立ち並び「コンコンチキチン」と何とも風情のある祇園囃子と共に、毎年90万人以上の人が集まります。
 ヒマワリが咲き始める7月に入ると、京都の中心地、四条烏丸では、町が祇園祭り一色になります。京都の人にとって欠かせない足である「阪急電車」の中吊り、アナウンス、ホームのBGMまでもが「コンコンチキチン」に変わります。そして夕日の出る頃、四条烏丸付近を歩くと、そこら中から各鉾の演奏者が「コンコンチキチン」の練習をしている音が聞こえてきます。それが聞こえてくると、「祇園祭やなぁ。今年も、夏がやってくるなぁ」と気持ちが高揚していたのを覚えています。

鱧が京都で名物になった由来

 丁度祇園祭が始まる頃、京都に出回るのが「鱧」です。
 京懐石にも必ずと言っていいほど鱧が登場します。
そもそも何故、鱧が京都で有名になったのでしょうか?京都は海に面している部分が少なく、交通の便が悪かったため、生命力が強く、真夏でも生かしたまま中心地に持ち込める魚でなくてはいけなかったのです。
 そして、丁度、京都が梅雨明けする頃から脂が乗り、おいしくなる魚、それが鱧だったのです。鱧は細長く細かい骨がいっぱいの魚で、食べるには細かく骨を切っていく「骨切り」が欠かせません。「一寸(約3cm)につき26筋」もの骨切りをするには、卓越した技術と訓練が必要とされます。
 そこで、京都の料理人達が職人技を磨いて、鱧料理を定着させて現在に至ります。

祇園祭の頃に「食べてはいけない」食べ物?

 では逆に、祇園祭の頃に「食べてはいけない」とされていた食べ物は何でしょうか? 
 それは、「胡瓜」です。
祇園祭は、もともと疫病の流行により無病息災を祈念し、京都市東山区の八坂神社(祇園社)の祭礼として行われたのが発端です。その八坂神社の紋が胡瓜の輪切りに似ている事から、祭りが無事終わるための願掛けとして、今でも祇園祭の関係者は胡瓜断ちをするそうです。
 多くの郷土料理には、歴史や人、その土地の地形、気候など様々な要素が絡み合って現在の「当たり前」の特産が作られています。
 何気なく食べるのではなく、歴史や特性を話の種にして、子供に聞かせることで、時間を経て伝わる『人の思い』や、「歴史に触れる」という『環境作り』、大人になっても『忘れない思い出』が生まれるのではないでしょうか?
 私は、いつか自分の子供にも、母から教えてもらった事を、家庭料理を通して伝えていきたいと思います。

鱧の磯香揚げ

 ここで、母から教わった、お勧め鱧料理をご紹介します。栄養士時代に勤めていた老人ホームでは、鱧の湯引きを梅肉で食べる献立が好まれていましたが、私のお勧めは、青のりを入れた衣を薄くつけて、さっくり揚げた「鱧の磯香揚げ」です。淡泊な鱧に青のりが、ほのかに香り、生臭い魚が嫌いな方でもおいしく食べて頂ける料理だと思います。
 鱧は悪玉コレステロールを減少させ、動脈硬化の予防をする事で有名な、DHA・EPAだけでなく、「コンドロイチン硫酸」という水溶性の食物繊維も豊富です。カルシウムの代謝を促進し、骨粗鬆症を予防する働きがあります。