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冬の郷土料理 納豆汁 ~山形県山形市~
2014年08月19日
地元に住んでいればごく当たり前の料理を見て都会の人が驚くことがよくあるように、地方の人が都会に住み、郷土料理を再現しようとしたときに「なんだか違うな……」と思うことがあります。地元の材料がそろわないだけでなく地元で食べるからこその料理、それは料理の味だけでなく田舎の、郷土の雰囲気も一緒に食べる味、これが郷土料理なのではないでしょうか。
自然豊かな盆地
私が住んでいる山形県山形市は東京から新幹線で約3時間、人口約25万人の県庁所在地の地方都市です。蔵王や月山といった山々にぐるりと囲まれた自然豊かな盆地の中にある市です。
市内には馬見ヶ㟢川が流れ、秋になるといも煮会をする人で賑わい、毎年恒例の「日本一のいも煮会フェスティバル」が行われるのもこの河原です。夏は暑く、冬は寒い盆地で、何年か前までは日本一暑い所でした。
最近の猛暑で一番ではなくなってしまいましたが、毎年の夏の暑さにはほとほとまいってしまいます。冬には蔵王温泉で樹氷まつりが行われます。樹氷は山形の地形と冬の風、木々などいろいろな条件が揃わないと作られることができないのですが、蔵王の場合は雪で覆われた樹氷を近いところで見ることができ、とても大きく幻想的で不思議な「スノーモンスター」が出現します。
秋のイベント
9月になっても最近は暑い日が多いですが、山形ではいも煮会シーズンの到来です。家族や仲間と河原でいも煮を楽しみます。この時期になってくると家庭でもいも煮を食べる機会が増えます。スーパーで、いも煮の材料、鍋、まきなどを人数分河原に配達してくれる広告を目にすると「もう、いも煮会の時期だなあ」と思う山形市民は多いです。また、山形では秋から冬にかけておいしい汁物が家庭の食事やイベントとして食べられる回数が増えます。
山形の正月
万病防止と邪気払いを意味する正月行事の七草。
全国の多くの地域では七草粥を食べることが多いと思いますが、山形のような雪深い内陸地方では春の七草をそろえることが難しいこと、動物性たんぱくを摂ることが多くないことなどから納豆汁が食べられるようになりました。
今ではスーパーに行けば七草の材料や動物性たんぱくの物が何でも手に入りますが、七草の夜、寒い冬の夜、山形では納豆汁を食べる家庭が多いようです。
納豆汁に入れる材料は各家庭独自の物があるようですが、納豆汁に欠かせないのが「いもがら」です。
いもがらは里芋の茎を茹でて秋に干した物で、冬期間の日照不足を補うビタミンDを多く含む食材です。里芋そのものは秋にいも煮の材料になります。
この他に、「納豆、豆腐、油揚げ、味噌」などの大豆たんぱく質、こんにゃくの食物繊維、ネギのビタミンB1、せりのビタミンC、七味唐辛子のミネラルなど、寒い冬に体の芯から温めてくれるだけでなく、栄養的な面からみても豊富にいろいろな物が含まれた汁物です。
各家庭の味や具材があるようですが、基本的に味噌汁仕立てで、私が作るときには大根や山菜を入れたりします。子供の頃、すり鉢で納豆をつぶす手伝いをするのがとても楽しみで、母と一緒に納豆をつぶしたのが今は良い思い出の一つです。
昔の人は秋に収穫した里芋の茎を捨てずに冬への保存食として大切にしていました。現代のようにまだまだ栄養学やビタミンの欠乏などが解明されない時代に、自然の中から何が人間の体に必要不可欠なものかを判断し取り入れて生きてきたことを思うと、改めて先人の偉大さに驚かされます。
納豆汁の作り方
納豆汁
材料(4人分)
納豆…………………………1パック
豆腐…………………………1/2丁
いもがら……………………2本
こんにゃく…………………1/2枚
油揚げ………………………1枚
せり・ネギ・七味唐辛子…適量
だし汁………………………4カップ
味噌…………………………大さじ5
① 納豆はすり鉢でよくつぶしておく。
② いもがらはお湯でもみ洗いし、5mm 幅に切る。
③ 油揚げ、豆腐、こんにゃくは1cmのさいの目切りにする。せりは1cmの長さ、ねぎは小口切りにする。
④ 鍋にだし汁といもがらを入れて煮る。いもがらがやわらかくなったら、油揚げ、こんにゃくを入れて煮る。
⑤ 材料がやわらかくなったら味噌を入れ、その味噌汁で納豆をのばしておく。
⑥ 最後に豆腐、せりを入れひと煮立ちさせ、器に盛り、ネギをのせる。好みで七味をかける。
*ポイントは納豆を入れてから煮立すぎないようにし、納豆の風味を逃がさないようにすることです。
七草のとき以外にも寒い夜には体が温まる汁物ですので、ぜひ皆さんも作ってみてください。
山形のおいしい物
山形には、汁物の他にもおいしい物がたくさんありますので、いくつかご紹介します。
一つ目は、ラーメンです。山形は中華麺の消費量が多く、おいしいラーメン屋さんがたくさんあるのですが、日本そば屋さんで出すラーメンは格別においしく、意外に思われるかもしれませんが、当たり前のように食べに行きます。
二つ目は、お好み焼きを割り箸に巻きつけたような「どんどん焼き」。
三つ目は、丸い玉のこんにゃくを串に刺した「玉こんにゃく」。桜の頃には、「どんどん焼き」や「玉こんにゃく」を片手にお花見をします。
四つ目は、暑い夏にきゅうりやなすなどの夏野菜をみじん切りにして、冷や奴やご飯にのせて食べる「だし」。
どれもこれもこの土地でしか味わえない自然や食べ物です。ぜひ皆さんも山形に来てください。