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「非常食」から被災生活を支える「災害食」へ

2014年09月11日

東日本大震災から3年半。

東日本大震災では最大47万人の被災者が避難所生活を余儀なくされ
食料についても1週間で840万食が調達されました。
今後起こりうる人口の多い地域での大規模な震災では、この一桁多い避難者が発生することが
予想されています。特に首都直下型地震においては、1週間に7,500万食もの食料が必要になると
想定されています。

阪神大震災・東日本大震災と大規模な災害を経て、
非常時の「食」も日々進化をとげています。

従来、災害時のために備蓄していた「非常食」
この「非常食」は常温保管可能で賞味期限が長いという特性があり
被災直後に外部支援が来るまで被災者が持ちこたえるためのもの、という考えがありました。
ですので、災害食を販売するメーカーも、「賞味期限が長い食品=よい非常食」といった考えで
商品開発をしていましたが、阪神大震災の時に賞味期限だけが長い「非常食」は、
栄養面・使い勝手・味・被災者視点の不足など、様々な問題が指摘され、
従来の「非常食」の概念が覆されたのです。

阪神大震災での教訓

従来の「非常食」は、災害に備えて備蓄されている保存性の高い食品が多く
万が一に備える、つまり「使わないことが前提」の食品の位置づけでした。

【これまでの非常食】
・応急措置的な「非常食」なので、普段の食事としては利用できない
・栄養面での偏りがある。(特にたんぱく質と野菜不足)
・お湯や水が必要なものも多い
・食べるシーンを想定していなかった
・とにかく保存性が高いことが価値
・「美味しい」は二の次。バリエーションも少ない。 など

外部支援が来る数日間だけ、応急措置的に食べる食料であれば
それほど支障はないかもしれませんが
ライフラインの復旧の遅れによる、水・ガスの不足や
避難所生活の長期化を想定した時には実用性に欠ける点が多々ありました。
これまでの「非常食」は被災生活や救援活動
という、一番大切な視点が不足していたのです。

「非常食」から被災生活を支える「災害食」へ

これまでは、災害時の栄養面や被災者のニーズに配慮した食品の研究が行われていませんでしたが
今後は
① 災害時栄養学の研究
② 災害対応食品の加工技術の開発
③ 災害食品用容器包装技術の開発
④ 調理装備の開発

などの視点から新たな「災害食」の開発が研究されています。

「非常食」と「災害食」の大きな違いとしては
「非常食」は使わないことを前提として、とにかく保存性が高いことが価値とされてきましたが
普段使いができないことが大きな問題でした。

「災害食」は震災発生直後から通常の生活に戻るまでの様々な状況に
対応できるよう、より広い概念が必要になります。

【災害食の条件」
① 調理のしやすさ、食べやすさ
  …様々なステージの方が食べやすいように。特に乳幼児や嚥下障害などのある高齢者など
② 栄養面での配慮
  …低栄養やバランスの偏りに配慮する。
③ 包装容器の工夫
  …そのまま容器が食器になるような工夫
④ 保存性
  …災害時は冷蔵庫などはもちろん使えないので、常温保存可能であることが絶対条件
⑤ 価格と食味
  …災害は来ないという前提で長期保存した食品は、いざという時に賞味期限が切れていて
   食べられない、ということも考えられる。家庭内で備蓄する災害食は、普段使いもできる
   備蓄食(ランニングストック)として使うことができるものが望ましいとされている。
   非常時だけに食べる食料ではなく、普段も食べられる食料と言うのがポイント。

災害時の食のスペシャリスト 災害栄養支援チーム JDA-DAT

日本栄養士会では、災害時に被災地の食の支援をするために特別な訓練を受けた
管理栄養士・栄養士を育成しています。

その名も、「JDA-DAT」。
Japan Dietetic Association - Disaster Assistance Team の略。

災害発生地域において栄養に関する支援活動ができる専門的トレーニングをうけた
栄養支援チーム、と定義しています。
東日本大震災では、災害の現場に的確な食のアドバイスやフォローができる人材が不足し
被災者の健康状態の悪化や、食事内容の偏りなどが深刻だったようです。

このJDA-DAT研修は、災害時の栄養アセスメントの進め方や、火・ガスが使えない時のレシピや
調理道具が不足している時の計量や調理の方法など、緊急時の細かなケースまで想定して
勉強することができます。

食のスペシャリストである管理栄養士・栄養士の私たちは
緊急時でも、食のスペシャリストとして何かしらの力になれるはずです。

有事に備え、この機会に災害時の栄養学について考えてみてはいかがでしょうか。