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東海道丸まりこ子宿の 「とろろ汁」 ─静岡県─

2014年09月26日

私の出身地、静岡の有名なものは、まず、富士山、清水の次郎長、ちびまる子ちゃん。
お茶、みかん、うなぎ、桜えび……。
郷土料理においては、静岡おでんやわさび漬けなど。最近では、富士宮焼きそばが一躍有名となりました。数ある静岡の郷土料理の中で、私にとって特に思い出深いものが「とろろ汁」です。

「丸子といえばとろろ汁」

 東海道の宿場町のひとつ、静岡宿を西へ向かった少々山深い所にある「丸子宿」で、自然薯(じねんじょ)がよく採れたことから、とろろ汁を旅人に振舞っていたと伝えられています。
 
 歌川広重の「東海道五十三次」にも描かれ、松尾芭蕉にもうたわれ、旅人にとってとろろ汁は、旅の疲れを取り、精をつけるものであったことから、「丸子といえばとろろ汁」と、ご当地料理として名を馳せていたそうです。今でも、丸子にある「丁子屋」は、400年以上変
わらぬ味を守り続けています。
 我が実家は、丸子からは若干遠いながらも山里にあるという共通点からか自然薯が自生していて、昔からとろろ汁を食することが多くありました。かつて親戚のおじさんが、実家の山の自然薯を一日かけて掘りに来ていました。いつも自然薯を置いて帰るので、母の作ったとろろ汁が、おじさんが来た日の夕ご飯の恒例となっていました。

自然薯掘りへ

 そんなある日、私は、その自然薯掘りへついて行ってみました。険しい山道を登り、木に巻き付いている自然薯のツルを探します。
 そのツルをたぐって土に埋まっている自然薯を掘り出しましたが、それがまた根気のいる作業でした。
 自然薯を傷つけないように、掘り進める作業を黙々と繰り返すこと2時間。1mを超える見事な自然薯と対面した感動は今でも覚えています。
 母は早速、土を落とした自然薯をおろし金ですりおろし、すり鉢でさらにすって粘り気を出します。私は専らすり鉢を押さえる係でした。
 卵1個をぽとんと落として醤油をひとたらしして、更にすると、自然薯はふわふわになります。あらかじめ、生サバを濃いめの味噌汁にして、身をほぐしてすり鉢に入れます。
 あらかた潰れたら、熱々にしたサバのダシたっぷりの味噌汁を少しずつ入れてのばしていきます。
 汁が程よいとろみになったら、みんなを呼んで夕ご飯。炊きたての麦ご飯に汁をたっぷりかけて、小口ネギを散らし、ざぶざぶと口へ流し込みます。サバと味噌の旨味が口いっぱいに広がり、ネギの香りがさらに味を引き立てます。
 「これは消化がいいから体にいいよ。昔のごちそうだに」と、曾祖母が食べるたびに言っていたのを思い出します。

子どもの記憶に残るお袋の味

 自然薯は山芋の仲間で、昔から滋養強壮に良いスタミナ食品とされています。山芋のネバネバとした粘りを出しているのが「ムチン」という成分で、粘膜を保護する作用があり、胃腸の調子を整え、たんぱく質の消化吸収を助ける働きのほか、血糖値上昇の抑制や、コレステロール値を低下させる効果が期待できるとされています。
 先日、友人から大和芋をもらったとき、そういえば、結婚してから一度もとろろ汁を作ってなかったな、と気づき、母の作り方を思い出しながら作ってみました。
 自然薯の替わりに大和芋、生サバの替わりにサバ水煮缶を代用しましたが、それでも、食べた瞬間「あ、お母さんの味だ……」と、なぜだか涙が溢れてきて、子どもたちに不思議な顔をされてしまいました。
 私にとってのお袋の味は、このとろろ汁だったんだ、と気づかされた瞬間でした。
 私も、ただ今、子育てまっただ中。我が子らは、どんなお袋の味を覚えていてくれるのか?
 手抜き料理が頻発している最近の食生活ですが、しっかりと彼らの記憶に残る料理を作るようにと、とろろ汁は気持ちを新たにさせてくれた大切な料理になりました。
 近々、おいしそうな大和芋が手に入ったら、また作ってみようと思います。