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300年の伝統を継ぐ味 「くぢら餅」 ─山形県最上郡最上町─

2014年09月29日

「歴史と温泉と緑の町 人が元気 地域が元気 産業が元気『キラリ輝く田園空間博物館の創造』 交流人口100万人をめざして」

すごく長い! 手前味噌ですが、かっこいい! 
私の地元、山形県最上町の標語であります。

出典:『伝えたいもがみの味』
最上町食生活改善推進協議会発行 39ページ

私の生まれ故郷最上町について

 場所は山形県の北東部、宮城県境に位置しており、なんといっても自然が豊かです。
 幼い頃、毎年夏になると清流小国川に父と向かい、天然のアユを網とヤス(銛もりのこと)で捕獲し、その日のうちに炭火で塩焼きにし
て食べる。最強の地産地消です。
 これほど人間的幸せはないと感じるわけです。ほかにも乗馬や自然体験のできる前森高原は「日本のモンゴル」と呼ばれる広大な草原
です。
 宿泊施設なども充実しているので、どっぷりと自然と融合しにいらしてください。
 また、『奥の細道』で有名な松尾芭蕉が宿泊した「封人の家」や、義経・弁慶伝説の残る瀬見温泉など、史跡や歴史的な場所が数多く残されているので、日本史が好きな方でしたら避けては通れない町ですよ。

くぢら餅のくぢらは鯨?

今回、紹介します「くぢら餅」ですが、変わった名称ですよね?
よく観光客からも「どうして海もないのに、くぢら餅っていうの?」と尋ねられるそうです。気になったので調べますと、諸説ありまして「くぢら餅が今より大きく(1本が米1升分、2㎏もあったそう)、鯨の塩漬けに形が似ていた」や「久しく持ちの良い餅、久持良餅」であるとかで、明確ではないそうです。

祖母直伝 くぢら餅レシピ

<材料>
A ・もち米粉 ・・・9合
  ・うるち米粉・・・1合
B ☆しょうゆ ・・・200cc
  ・砂糖   ・・・1Km
  ・水    ・・・1.2L
  ・くるみ  ・・・お好みで


<作り方>
① 鍋に水800ccとAを入れ、火にかけ沸騰したら火を止める。
② ①に水2カップを加える。
③ ②に、Aを合わせた粉を少しずつ入れ、つぶつぶがなくなるまでよくかき混ぜ、一晩寝かせる。
④ ③をくぢら餅の型(型であればなんでもOK)に流し、強火で1時間蒸す。
⑤ ④をとりだし、クルミを上にのせ、さらに強火で1時間蒸す。

【祖母のおいしい知恵袋】
・☆を「塩・・・40g」または「みそ…23g」に変えてもおいしい。
・餅が硬くなってきたら、お好きな厚さに切り分け、オーブンやフライパンなどであぶると表面はカリッと香ばしく、中はモチっとおいしい2度目を楽しめる。
・冷凍保存もできる。

桃の節句に込めた想い

 私は管理栄養士ですので、栄養学的な観点から申し上げようと思ったのですが、レシピを見ていただくと分かりますように、とにかく糖質です。砂糖の量からみても、現代であれば「間食を控えましょう」の指導対象です。

 しかし、何百年と続く郷土食には必ず栄養素の充足には留まらない歴史的背景が存在します。素朴で飽きのこない味であることもさることながら、くぢら餅の場合は長期保存が可能であるために、「洪水」「不作」を乗り越える保存食として、戦乱の時代を生き抜くための兵糧として、最上地方の先祖代々を支えてきました。
 その感謝の気持ち、「太く長く生きて欲しい」という願いを込めて、桃の節句にはくぢら餅をお供えしたのだそうです。
 簡単に食べ物を得ることができる飽食の現代だからこそ、昔ながらの慣習の意味を今一度見直したいものです。

伝統の味を継承

 この度、郷土食を決めるにあたり、最上町産業振興センターにご協力いただき、「伝えたいもがみの味」という郷土食レシピ集をお借りしました。食を生業とする現在、地元に伝統食が形として継承されていること、これほど喜ばしいことはありません。

 そしてその本を開いて更に感動しました。その本に掲載されている料理の多くは、私が幼い頃に祖母が作ってくれたものばかりでした。祖母が伝統の味を受け継いでいることをうれしく思う半面、伝統が喪失してゆくことへの危機感を抱きました。
 おそらく「我々の世代で祖母の味を再現できる人はいない」と思います。ですので、この機会に少しずつ、私が祖母に料理を習うことから伝統を紡いでいきたいと感じました。
 
 ぜひ「最上町」「くぢら餅」をインターネットで検索してください。1人でも多くの方に最上町のことを知っていただけたら幸いです。