ショクライフTOP > 栄養士の知恵袋 > 小倉名物『ぬか味噌炊き』 ─福岡県北九州市─

小倉名物『ぬか味噌炊き』 ─福岡県北九州市─

2014年10月04日

 北九州市は製鉄所など、工業都市としてのイメージが強い地域ですが、森林面積が市域の4割を占め、北は玄界灘(日本海)、東は周防灘(瀬戸内海)に面するなど豊かな自然に囲まれており、古くから農業や水産業も盛んに行われてきました。
 名物品としては『焼きカレー』『関門だこ』『合馬のたけのこ』『若松キャベツ』など様々です。最近では小倉でB1グランプリが開催され『小倉発祥焼うどん』が5位にランキングされ有名になりました。また、酒類がなく、おでんとおはぎが置いてあるユニークな屋台も名物です。
 その中でも今回は『ぬか味噌炊き』をご紹介したいと思います。


写真:ぬか味噌炊き
(九州の郷土料理と簡単まかないレシピHPより)

江戸時代から伝わる伝承の味

 江戸時代の後期、北九州の小倉(豊前の国)は小笠原氏が治めていましたが、『ぬか味噌炊き』はこの頃に創られたと伝えられています。ぬか味噌炊きとは、主にいわしや鯖などの青魚を煮る際に、ぬか味噌を加えじっくり煮込んだものです。
 当時は傷みやすい青魚の臭みを取り保存食として利用するための小倉城御殿女中のアイデア料理だったそうです。
 別名『じんだ煮』ともいわれます。“じんだ”とはぬか味噌を指し、一説では小倉藩主の小笠原家が「陣をたてる」ときに食べていたことからこの呼び名がついたともいわれています。

味の決め手【ぬか味噌】

 ぬか味噌とは、米ぬかに水と塩を混ぜ合わせ乳酸発酵させたもので、これに山椒の実や唐辛子・生姜など様々な旨みを加えます。ここで何を加えるかによって家庭独自の味が作られるのです。ぬか味噌は発酵菌が生きているため一日に一度は手で混ぜ、空気にしっかり触れさせる必要があり、手間のかかるもの。
 そのため、最近ではぬか床を作る家庭が減ってきているようです。
一昔前までは、ほとんどの家庭にぬか床があり、その家ごとにオリジナルの味がありました。
 中には100年以上続く先祖代々のぬか床を愛用している家庭もあるそうです。こうした中、小倉では家庭の味として長年親しまれてきたぬか味噌炊きが市場などでも多く扱われています。
 北九州の台所、旦過市場では200を超える店が立ち並び、数多くの専門店や魚屋でぬか味噌炊きが売られています。

いわしのぬか味噌炊きレシピ

〈材料〉
いわし・・・7匹、
調味料A
(水200ml・酒200ml・砂糖20g・みりん大さじ1・醤油大さじ2~3)
ぬか味噌・・・70g
生姜少々・山椒少々

〈作り方〉
①いわしは頭を落とし、内臓を筒抜きにし、80℃くらいのお湯をかけ、さらに冷水にとることで臭みを消す。
②圧力鍋に生姜の千切りと調味料Aを合わせ、ひと煮立ちしたらいわしを投入し、圧力をかけ弱火で20分程度煮る。
※昔ながらの調理法では2~3日かけてじっくり煮込みますが、今回は圧力鍋を使用しました。
③ぬか味噌と山椒を入れ、煮汁が1/3程度になるまで弱火でじっくり煮詰める。

いわしのぬか味噌炊きの栄養

 青魚には動脈硬化や高血圧予防にも効果的なDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。
 また、いわしを骨ごと調理することで、よりたくさんのカルシウムを摂取でき、カルシウムの吸収を助けるビタミンDも多く含むため、骨を丈夫にし、骨粗鬆症の予防にも役立ちます。
 ぬかには美容にも効果的なビタミンBや抗酸化作用があるビタミンEのほか、カルシウム、タンパク質、鉄分、ミネラル、食物繊維など多くの栄養素が含まれています。

北九州のスローフード

 ぬか味噌炊きは、時間をかけじっくり煮込むことで保存性を増し、骨ごと食べることで無駄がなく、より高い栄養価を得ることができる、まさに誇るべき郷土料理です。
 私自身、今回改めて調べてみると昔の人の知恵ってすごいなと心底感じました。北九州出身でも現代の若者にはあまり馴染みのない料理だとは思いますが、まさに誇るべき郷土料理なのです。
専門店やネットでも販売されていますので、ぜひ一度味わって頂きたいと思います。