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日本のこころ、和食の知恵シリーズ② ~「もったいない」から生まれた「発酵技術/発酵食品」
2015年01月23日
1月20日は二十四節季で言う「大寒」でした。
一年で一番寒い日という事ですが、暦通りに寒い時期が
続いています。皆様どうかお体ご自愛ください。
しかし、間もなく「立春」寒明けがやってきます・・・
寒さの次には必ず春の暖かさを味わえるのも日本ならではですね。
一年中、過ごしやすい気候も良いですが、寒さを味わうから
暖かさが嬉しいし、暑さを感じるから平凡な穏やかささえ
感謝したくなる。
そんな国、なかなかありませんよね。
季節を味わうように、今おかれている立場を楽しむことが
できれば人生をもっと充実したものにできそうですよね。
さて、先回は世界文化遺産に登録された和食の4つの特徴から
ふだん何気なく使っている「いただきます」「もったいない」
「ごちそうさま」の3つの言葉について書かせていただきました。
今回からはその中の「もったいない」から生まれた日本の
特徴的な食文化について探ってみたいと思います。
「もったいない」のこころ
「もったいない」という言葉は、
『生命をいただくのだからその生命を無駄にしない』
という決意と感謝の言葉だと前回書かせていただきました。
それが次のような食文化に現れる様になったのだと思います。
◇その時期(季節)に摂れたものを
◇より効果的に(発酵技術)
◇より長持ちさせて(保存技術)
◇無駄なく食べる、丸ごと食べる(食べる技術)
数百年前、数千年前にはもちろん現代の様な保存技術がありません。
夏は蒸し暑く、冬は霜枯れ時と言ってあまり作物が育たない時期が
ある日本の気候。
放っておけば腐ったり、傷んだりして食べられなくなってしまう。
かと言ってしっかり保存しておかなければ食べられなくなる時期が
来てしまう。
「食べること」が「生きること」に直結していた時代だからこそ
より効果的に食べる工夫がどうしても必要だったのでしょう。
「より効果的に食べる工夫」としての発酵技術
では、「より効果的に食べる」とはどういうことかと言うと・・・
◇より消化・吸収しやすくして
◇少ない量でも高い栄養価を持たせ
◇より長持ちさせる
という事です。
そうすることで「限られた食べ物」でより丈夫に生きられる事になります。
そういう必要性から生まれたのが発酵食品です。
「腐る」という腐敗菌の働きを参考に
「発酵」という有用菌の働きを生かした技術を生み出す。
ここに「もったいない」のこころを感じます。
日本の代表的発酵食品『糠漬け』
発酵食品と言うと何を思い浮かべるでしょうか?
納豆、みそ、しょうゆ、お酒やお酢、みりんもそうです。
最近ではブームから定番調味料になった塩麹も発酵食品ですね。
しかし、忘れていけないのは「お漬物」であり
お米の糠を再利用した『糠漬け』はまさに日本の食卓の中の
代表的発酵食品と言えるのでは無いでしょうか?
縄文時代から稲作は行われていたと言われていますので、
お米は名実ともに日本人の心とからだを支えてきた主食
だと言えます。
そのお米の表面の薄い層が糠や胚芽です。
お米を食べるには少しこの部分を削った方が確かに食べやすい。
でもこの部分もきっと食べ物として必要なはずだから捨てるのは
もったいない・・・
そんな思いから『糠漬け』は生まれたのかもしれません。
糠漬けでビタミンB1は10倍に!!
実はこの糠漬け、一日でビタミンB1を約10倍にしてしまう
超高栄養価食品製造法なのです!!
女子栄養大出版部から出版されている『調理のためのベーシックデータ』
(第4版)によるときゅうりを糠漬けにした後のビタミンB1とCの変化が
記載されています。
それによるとビタミンCは若干減少しますがビタミンB1は10時間後に約5倍、
24時間後には10倍以上になっていることが分かります。
ビタミンB1は主食であるお米などの穀類に多く含まれている炭水化物、
つまり人間が活動する上での『燃料』の役割を果たす栄養素から
エネルギーを生み出す時に必要なとっても重要な役割を担っています。
燃料があっても「ビタミンB1」が少なければエネルギーを生み出す
事が出来ませんので元気もやる気も出てこないのです!!
そういう大切な役割を持つ栄養素、ビタミンB1が一日で10倍になる糠漬け。
あなどれません!!
極端な言い方になりますが、ビタミンB1だけで考えれば
糠漬けにすることで摂取量は10分の1でも良い事になります。
別の見かたをすると10倍長持ちさせられるわけです。
これってすごく効果的ですよね。
「もったいない」のこころから生まれた発酵食品。
現代人こそこの和食の智恵が必要な1つの例だと思います。