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《栄養士✩成功事例インタビュー》栄養士・若宮寿子さま 【「食」を「職」にする幸せ。栄養士という仕事に誇りを!】 ~頼んだ人が気持ちの良い仕事をすることが成功の秘訣(第六部)

2017年04月18日

栄養士✩成功事例インタビューの第6回目は、栄養士であり、FCAJ認定フードコーディネーター/米国NSF HACCP9000コーディネーターの若宮寿子さんにご登場いただきます。

これまで、第一部では、若宮さんが「食」にたずさわるようになったきっかけから。第二部では、山脇学園女子短期大学(当時)を卒業後に入った大企業で、「給食管理」と「病態栄養」の両方を経験することができた貴重な会社員時代。第三部では、退職して10年間の子育て期間を経て、40歳のときに「キャベツの早切り」をきっかけに料理教室をスタートさせるまで。第四部では、その料理教室がビジネスになるまでのお話を。そして第五部で、料理教室以外の仕事をどのように広げていったのか、というお話を伺いました。

その中でもとくに、第三部と第四部で、子育てのために退職して家庭に入りながらも、知り合いの科学ジャーナリストから海外の最新情報を自費で購入し続けた、という話が大変強く印象に残りました。なぜなら、「料理の世界も情報産業」だと言われる中、最新情報をいち早く取り入れることが情報ギャップを生み、料理教室でもそれを活かすことができたからです。同時に、その科学ジャーナリストを通して広告代理店にも若宮さんの存在が知られ、広告の仕事にもつながったといいます。

つまり、子育て期間中も「向学心」を失わず、海外の最新情報をいち早く取り入れてきたことが、現在の若宮さんの活躍につながった、といっても過言ではないでしょう。
もちろん、家庭に入りながらも在宅で仕事を続け、「仕事の糸を切らさなかった」ことも大きな要因でしょう。

その後、近所のママ友3人からはじまった料理教室は、「申告」を契機にきちんとしたビジネスへと発展し、今では20代から70代まで、幅広い年代の生徒さんを抱えるまでになりました。料理のテーマも、受験生のための料理や、夏バテしないための料理などの身近なものから、妊婦さんのための料理や赤ちゃんのための離乳食などまで広がっているそうです。

また、料理教室以外でも、フードコーディネーターの資格を取ったことで自分の仕事を体系化できることを知り、ビジネスパーソンとしての自覚も芽生え、全国で1日5万食の昼食が出るような大企業でフードコンサルティングを行ったり、クルーズ船のフルコースメニューを企画したり、雑誌に連載を持ったりと大活躍。相当ハードな日々を送っていたようですが、若宮さんはビジネスパーソンとしての“責任感”と、栄養士としての“健康管理”で乗り切ってこられたようです。

そして第六部、最終回では、これまでのまとめとしてのお話を伺います。最後までじっくりと読んでいただけると幸いです。

※今回も学習院女子大学名誉教授の江口泰広氏とショクライフ麦島健生との対談形式でインタビューを行いました。臨場感を大切にお届けしたいと考え、対談形式の構成となっております。

【1】

江口先生:
前回は、ビジネスパーソンとしての“責任感”と、栄養士としての“健康管理”が大事、というお話まででした。そこのところをもう少し詳しくお願いします。

若宮さん:
たとえば講師をやるときなんか、結構ストレスが貯まるんですが、そういうときはビタミンCが多いものを食べる、というかんじですかね。サプリメントよりは、食べ物で摂るほうがいいと思います。栄養士だったら、あれが足りない、というのがわかりますから。

江口先生:
足りない栄養素を効率的に補えるのも、栄養士ならでは、ということですね。

若宮さん:
はい。なにしろ超ハードな日々なので。私って多分、人より寝ていないんです。めったにはありませんがひどいときは2時間しか寝なくて10時間撮影やったりとか。だいたい、余裕のある仕事って、そうはないんですよ。皆さん、「すいません、うちはタイトで」って仰るけど、うちだけじゃなくて、ぜーんぶがタイト(笑)。

江口先生:
そういうものですよね。楽な仕事なんて1つもありません。

若宮さん:
そんなギリギリの中でも、お仕事を受けた以上は、ご依頼いただいた方が気持ちいいような対応をするのが、ギャランティをいただく最低限だと思ってます。私自身も、頼んだ仕事をきちんとやっていただけると気持ちがいいので。

江口先生:
そうか、気持ちよく対応するのが大事、と。

【2】

若宮さん:
もちろん無理な仕事は断りますけどね、リスクがある仕事も。危ない仕事は自分の足元も危うくなるので、それはちゃんと言います。

江口先生:
そうすると、ご自身が考える「成功の秘訣」といえば、先ほど言われた“責任感”と“健康”ですか? あるいは、頼んだ人が気持ちいいような仕事をする、ということでしょうか?

若宮さん:
まあ、「先方の要望に無理なく応える」ということでしょうか。仕事に大小に関わらず、お互いが気持ちよくなれるよう、メンタル面には気を使います。

江口先生:
人の気持ちがわかるんですね。それ以外に、今振り返ってみて、「これをやったから成功した」なんて思うこと、あります?

若宮さん:
う~ん、成功の要因ではないですけど、料理教室をはじめるときに、「よく自宅を開放できるね」って言われたことがあったんです。「他人が自宅に入るはイヤじゃない?」って。でも、私の実家の本家がお寺で、しかも私は小さい頃からずっとそこでお茶を習っていましたから、知らない人が家に入ってくるのは当たり前なんですね。母も叔母も人を招いて料理を出すようなことをやっていましたし。

江口先生:
ああ、お茶はいいですね。

【3】

若宮さん
そう、もう今はやってないですけど、振り返ってみたら、その頃の経験が今になってすごく生きていると思います。所作がよくなりますし、台所の収納も得意ですから、人が来ても恥ずかしくないんです。

江口先生:
なるほど、栄養士にはお茶の素養が必要かもしれないですね。

若宮さん:
季節感もそうですよね。そういうのが今になって、器やテーブルコーディネートのしつらえにも役立ってます。

江口先生:
逆に、今まで辛いと思ったことは?

若宮さん:
子どもが小さかった頃はやはり大変でした。あと、家に年寄りもいましたし。それでもなんとかやりくりできて、仕事に穴を開けられずに済んだのは、見えないところで家族の助けがあったからでしょうね。あるとき、犬が病気になったので、主人が半休をとって病院に連れて行ったんです。そして帰宅すると撮影をやっていたものですから、びっくりして言葉を失っちゃって(笑)。私の仕事のことは知っていましたが、撮影の現場なんて見たことがなかったので。でも、そのとき、主人が開口一番、「いつもお世話になってます」って挨拶してくれまして、私、それで「救われたぁ」って思いました。子供たちも、撮影が終わると「どうだった?」って気にしてくれます。家族には本当に感謝しています。

【4】

麦島:
仕事で行き詰まりを感じたこととかはなかったですか?たとえば今の若い栄養士たちは、給食の現場を嫌がるんですが、なぜかというと、よく「世間との接点がない」ということを言うんです。せっかく一生懸命つくっても、反応がない、というか。

若宮さん:
反応はあるじゃないですか。給食判定というものが必ず出ますし、それに喫食者は目の前にいるんですよ。たしかに長靴を履いて、爪も伸ばせないような地味な仕事ですけど、やりがいはあると思います。そこで頑張れば次のステップにも行けますから。

「世間との接点がない」というのも、仕事をしている以上、それはないのではないでしょうか。仕事を辞めたらなくなりますけどね。私も退職して家庭に入ると、世間との接点が欲しくて仕方がありませんでした。だから、在宅の仕事をもらえたときは、主婦で子供もいる私でも世間との接点が持てるなんて、「ありがたいなあ」と思いました。

江口先生:
そういう気持ちの持ち方で大きく違ってくるんでしょうね。

【5】

若宮さん:
経験を積む、という意味でもいいと思います。その後に転職したとして、たとえばレストランプロデュースをやるにしても、フードコンサルタントになるにしても、何をするにも厨房の現場を熟知しているのとそうでないのとでは、大きな差が出ます。給食管理って、発注からレシピ開発まで、全部ですから。しかも何百食、何千食の世界なので重量感も掴めますし、展示会へも行けて幅広い食材知識も持てます。つまり給食を経験していればなんでもできる、といっても過言ではないと思います。だから、そういう現場で働けることに誇りを持ってほしいですね。

江口先生:
経験を積む、とはすなわち、学びの時間が必要、ということですね。

若宮さん:
そう思います。私も給食管理をしていた9年間の経験が大きかった、と今にして感じています。ただの主婦じゃなくて、あの9年間があったから信用もしてもらえたと思いますし。大変は大変かもしれませんが、そういう経験をいくつか経て、それから次へ行かないと、最初から1つの目標に到達することなんてありえませんから。

江口先生:
今は待つのが苦手、という人が多いから、修業だと思って我慢する、ということがあまりないんじゃないですかね?

【6】

若宮さん:
今はホームページやブログなどがありますから、特徴のある人はそれで取り上げてもらえるかもしれませんけど。でも、栄養士というのはちゃんとした国家資格ですから、資格を持っているのであれば、地に足をつけて、基礎を現場で学んで、それからスタートしても決して遅くはないと思うんです。私なんて、40歳からですよ(笑)。

江口先生:
基礎がきちんとできている人は、重みが違いますから、自分から売り込まなくても仕事が来るんですよね。成功している人はみんなそう。売り込まなくても仕事が来る人が成功するんです。逆に、売り込まないと仕事が来ない人は成功しません。そこをわかっていない人が多い。
ということで、ここで若い栄養士さんたちにアドバイスをいただけませんか。人生の先輩として。

若宮さん:
そうですねえ。人それぞれですから難しいですけど、私が思うのは、お茶とか、お花とか、絵でもいいんですけど、お料理以外の素養を身に付けることが大事、ということですかね。たとえば本をつくるときは季節感が必要ですし、スタイリングには美意識が欠かせない、というように、料理のテクニックの他にも大切なものが色々とありますから。

江口先生:
それは「文化」、または「一般教養」ということですね。わかります。技術だけの医者が人を見ないのと同じように、文化や一般教養がない人は能力を持っていても広がりがないんですよね。

若宮さん:
あとは、今の現場を軽視しないで、そこが「自分を磨く場」だと思って、頑張ってほしいですね。どんな現場でも、しっかり真面目に仕事をしていれば、いつか必ず花は咲きます。慌てなくていいと思いますよ。今は平均寿命も伸びていますから、長い目で見て。そうしたら、私のように「キャベツの早切り」で人生が変わるかもしれませんよ(笑)。

麦島:
最後に、若宮さんにとって「食」とは何ですか?

若宮さん:
「人生」そのものです。先ほども言いましたが、「食」は生まれてから亡くなるまで、生きていくために絶対に必要なもの。その「食」を「職」にできるのは幸せなことだと思います。ですから、皆さんも栄養士の資格を持っていらっしゃるのであれば、「食」が「職」になる仕事に誇りを持って、楽しみながら働いていただきたいですね。

一同:
ありがとうございました。

【7】

若宮さんの(第六部)はここまで・・・
いかがだったでしょうか。人が生まれてから亡くなるまでずっと必要な、人生そのものともいえる「食」を、「職」にできるのは幸せなこと。そういう仕事ができる栄養士という資格に誇りを持っていただきたい、という若宮さんの言葉を、1人でも多くの栄養士さんたちに届けられたらうれしいです。
また、たとえ今の現場で悩んでいても、そこが経験を積む場だと思って頑張って、しっかり基礎を学んで、それからスタートしても決して遅くはない、ということを、あたかも若宮さんが身を持って示してくれたようにも感じました。これを読んで下さった皆さんの中にも、共感されたり、勇気づけられたりした方がいらっしゃるのではないでしょうか。最後まで読んでいただいて、まことにありがとうございました。