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「和洋折衷」独自の食文化から生まれた家庭料理 「浦上そぼろ」 ─長崎─

2015年12月08日


 私の故郷である長崎県は、佐賀県と隣接している北西部以外は全て海に囲まれ、五島列島や壱岐、対馬など大小様々な971もの島々から成り立つ県です。複雑に入り組んだリアス式海岸を有する事から、海岸線の長さは北海道に次いで2位となっています。そんな長崎県は『水産県』と呼ばれるほど、海の幸に恵まれた土地です。

 また、長崎は鎖国時代に唯一外国との交流が許された場所だった為、『食』においてもその影響を大きく受けており、中国やオランダ・ポルトガルといった西洋、そして日本の食文化が融合して長崎独自の食文化が築かれてきました。その象徴と言えるのが、【卓袱料理】です。「卓袱」とは「円卓」の事を意味しており、和食の基本である「膳」ではなく「円卓」を囲んで、大皿に盛られた料理を各々が自由に取り分けて食べるというスタイルが卓袱料理の基本形とされています。

 料理の内容は、魚・肉・季節の野菜などを使った「和洋折衷」な御馳走(一般的なものは鯛のお吸い物から始まり、刺身、豚の角煮、天ぷら、煮物、パスティと呼ばれるミートパイのようなもの、締めはお汁粉や果物など!)が次々と運ばれてくる、とても贅沢なものです。元は家庭でのおもてなし料理として定着したものとされていますが、現在では料亭において冠婚葬祭や宴会などで振る舞われることが多く、あまり普段の生活で食べる機会はありません。

長崎の学校給食でもお馴染みの【浦上そぼろ】


 では、普段から口にする家庭料理はどのようなものかと言うと・・・そこは、やはり様々な文化が混ざり合った「長崎らしい」料理が沢山あるのです。今回は家庭ではもちろん、長崎の学校給食でもお馴染みの【浦上そぼろ】という料理を紹介したいと思います。
 
 その名の通り、長崎市内にある浦上という地区で誕生したから【浦上そぼろ】。この料理が生まれた時代は、まだ日本では肉を食べる文化がありませんでした。キリスト教が日本に伝わり、浦上地区でも布教活動が活発に行われた為、浦上はカトリック信者の多い町となりました。そこに滞在していたポルトガルの宣教師が、健康に良いからという理由で日本人に「豚肉」を食べることを勧めたのが【浦上そぼろ】誕生のきっかけとされています。

ポルトガル語で“余りもの”を意味する・・・


 では、肝心の“そぼろ”とは何なのか・・・
“そぼろ”=“挽肉”を使った料理だと思いますが、実は挽肉は使いません。名前の由来には、ポルトガル語で“余りもの”を意味する“ソブラート”からきたという説と、素材を粗く切ることを表す“粗ぼろ”からきたという二つの説があります。

 “余りもの”という言葉を使う通り、使う食材は家庭や学校によって少々異なり、冷蔵庫に残っている食材を色々加えて作ります。でも、欠かせない食材は豚肉、揚げ蒲鉾(長崎では「天ぷら」がポピュラーな呼び方)、ごぼう、もやし。この基本食材4つに、人参やこんにゃくなど冷蔵庫にある“余りもの”を入れます。これらの食材を全て同じくらいの大きさの細切りにして、きんぴらのように砂糖と醤油で甘辛く味付けをした炒め物が【浦上そぼろ】です。

 きんぴらと一味違い、長崎の定番料理である「ちゃんぽん」や「皿うどん」と同じで、もやしや揚げ蒲鉾が入っているのがとっても長崎らしい一品です。また、栄養面で見ても豚肉のタンパク質やビタミンB1やB2、蒲鉾の良質なタンパク質、野菜から摂れるビタミンや食物繊維など、栄養バランスにも優れているのです。

 身近な食材で簡単に作ることができ、栄養バランスも良いことから、今でも長崎の郷土料理、家庭料理として愛されている料理なのだと思います。

【浦上そぼろ】の作り方!


<材料(2~3人前)>
☆豚肉(バラ、モモなどお好みの部位でOK) 50g
☆揚げ蒲鉾 1枚 ☆もやし 2分の1袋
☆ごぼう 100g
・糸こんにゃく 100g ・人参 2分の1本

※☆印は必ず入れてほしいですが、他の食材は冷蔵庫の余りものでアレンジOKです!

《調味料》
・炒め油 適量
・砂糖  大さじ1
・酒 大さじ1
・みりん 大さじ1
・濃口醤油 大さじ1.5  
・白ゴマ 適量
・お好みで鷹の爪や七味唐辛子

<作り方>
1.豚肉は食べやすい大きさ、ごぼうはササガキか千切り、揚げ蒲鉾・人参は千切りに
する。糸こんにゃくは食べやすい大きさに切り、臭み消しの為に下茹でしておく。
2.フライパンに油を敷き、豚肉・ごぼう・人参・糸こんにゃくを炒める。
3.揚げ蒲鉾ともやしを加えたら、調味料で味付けをする。
4.器に盛って、白ゴマを振ったら完成です。

仕上げにゴマ油を少々加えると更に風味良く仕上がります。ピリ辛がお好みの場合は、鷹の爪を入れて炒めたり、仕上げに七味唐辛子を振っても美味しいです。もやしやごぼうのシャキシャキ感が残るように手早く炒めるのもポイントです。