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讃岐のバランスソウルフード「しっぽくうどん」 ─香川県高松市─
2016年01月12日
【さぬきうどんと歴史】
さぬきうどんといえば香川県発祥のソウルフードですが、大手チェーン店の進出によって今や日本国内はもとより、欧米、アジア諸国、ハワイなどのリゾート地や大都市のフードコートで世界中の人々に愛されています。
うどん伝来のルーツは諸説ありますが、一説には善通寺市出身の弘法大師が8世紀ごろに現在の中国から伝えたとも言われています。香川県は降水量が少なく、たびたび干ばつに見舞われており、水稲栽培が困難であったことから、米の裏作として乾燥に強い小麦の栽培が盛んに行われていました。また江戸時代に入ると、瀬戸内海沿岸を中心に「入浜式塩田」が開発され、うどんのコシを決めるのに欠かせない塩が生産され、また瀬戸内海では伊吹島をはじめ良質な「いりこ」の原料である「カタクチイワシ」の水揚げが盛んであったことなどから長い年月をかけて、現在のコシが強くイリコの風味豊かな出汁の讃岐うどんが独自に進化してきたのではないかと考えられます。
うどん伝来に関してはまだまだ謎が多く、どの説が正しいのかははっきりしませんが、空海が満濃池の改修工事を行った際、職人たちにうどんをふるまったという記録もあるそ
うなので、こと讃岐うどんが有名になったのに弘法大師空海が一役かっていたことには間
違いないでしょう。
そういった歴史の名残なのか、善通寺市近郊の中讃地域ではうどん文化が色濃く残っており、法事や慶事などでお客さまをおもてなしする際に家主は、蒸篭で大量にうどんを購入し、何玉もふるまうことも珍しくありません。
悩めるうどん県民
現在では世界的なファストフードとなった讃岐うどんですが、うどんを日常食として長年食べてきたうどん県民は、車社会へと変化したこともあり、現代の日本人が悩める「生活習慣病」という大きな問題を抱えています。糖尿病による死亡率はお隣の徳島県とワースト1、2を競い合っているのが現状です。
もちろん「うどん」=「糖尿病」ではありませんが、香川県民のうどんの味わい方にはこだわりがあり、「うどんは飲み物」という人がいるくらい、うどんは噛まずに「のど越し」を味わいます。その結果、2~3玉を5分くらいで食す方も少なくありません。うどんと一緒に好んで食べられるトッピングの天ぷらやいなりずし、バラ寿司(ちらしずし)も糖質と脂質、塩分が多く血糖値や血圧が上がりやすいのです。
うどんの食べ方に加え、香川県は野菜の摂取量では男女とも全国ワースト1位と2位で栄養バランスの悪さが数字となって如実に表れています。
バランス栄養食しっぽくうどん
うどん好きには耳の痛いお話でしたが、今回はそんな悩みを解決すべく、栄養のバランスがよく血糖値上昇を緩やかにし、おまけに寒い季節に体も温めてくれる香川の郷土料理「しっぽくうどん」をご紹介しましょう。
「しっぽく」とは「卓袱」と書き中国の食卓が語源でしたが、その昔、九州で作られていた和風中華料理の卓袱料理を指すそうです。「しっぽくうどん」はそのなかの、麺の上にいろいろな具をのせた料理がルーツになったと考えられています。その名の通り現在の香川のしっぽくうどんもうどんが見えないほど具を載せて食べるのが特徴です。
根菜は体を温める効果があり、またシイタケなどのキノコ類と同様、食物繊維が豊富なので、うどんに含まれる糖質の吸収を穏やかにし血糖値の上昇を抑えます。大根のアミラーゼは消化を助け、また豊富なビタミンCは鶏肉のコラーゲンの吸収を促進し、骨の代謝促進や冬場の肌の乾燥を防ぎます。人参に含まれるβ-カロテンは体内で必要に応じてビタミンA に変化し、粘膜を保護し肌の乾燥を防ぎます。また抗酸化作用があり老化防止に役立ちます。サトイモのネバネバ成分であるムチンは胃や腸官内の粘膜を強化し、風邪やインフルエンザなどの病原菌の侵入を防御することが知られています。シイタケは豊富なうまみ成分とともにエルゴカルシフェロールが含まれ、体内でビタミンDとなり骨の成長を促進し、骨粗鬆症の予防に有効です。またガン細胞を撃退するNK細胞を活性化させ免疫力アップに有効です。
これらの野菜に加え鶏肉や大豆製品の油揚げ、魚のすり身などを一緒に摂ることにより、良質なたんぱく質と糖代謝や脂質代謝に必要なビタミンB群も一緒に摂ることができるので、必要な細胞を新しく作り、うどんの炭水化物もうまく代謝されエネルギーとなっていきます。香川県では上記の材料で作られることが多いですが、これらに加え冬が旬のホウレンソウや小松菜、ゴボウなどを入れると更に健康効果がアップします。
栄養的にも優れていますが、何より冷えた体に熱々のしっぽくうどんをフーフーしながらたっぷりの野菜や具と麺をしっかり噛んで食べられるので早食い、大食い防止につながります。しっかり出汁をとることにより、塩分を抑えることができ、出汁の旨味と野菜の甘みとが相まって、食べた後の余韻は優しいおふくろの味です。
早い、うまい、安いとうどんブームに沸く今日この頃ですが、10年後20年後に讃岐人の愛するうどんが世界でバッシングを受けることがないように、こういう食べ方も多くの方に知っていただき、世界中の人に愛され続けるファストフードとして各地で進化していってもらいたいと切に願っています。
【しっぽくうどん】の作り方!
《材料 4人分》
うどん 4玉
だし汁 (イリコ、かつお節、昆布などお好みで) 600cc
鶏もも肉 100g
ひら天 (白身魚の天ぷら) 40g
大根 80g
人参 40g
サトイモ 40g
シイタケ 3~4枚
油揚げ 1枚
かまぼこ 20g
青ネギ 少々
醤油 5g
酒 5g
塩 少々
《作り方》
① イリコ出汁の場合イリコは水につけて30分ほどたってから火にかけ、沸騰したら弱火で10分ほど煮て火を止めて、だしがらをこします。
② 好みの大きさに切った具材と酒を入れ、柔らかくなるまで煮ます。
③ うどんを入れ温まったら醤油と塩で味を調えて火を止めます。
④ 器に盛ってねぎをトッピングしたら出来上がり。